ダイビングは、すべての人に向いている。〜勝浦ダイバー、ノリさんのところ【第2話】

勝浦の地域密着ダイビング・インストラクターとして、房総の海と、そこに惹きつけられてくる人々を観察し続けるノリさんに、ダイビングの世界観を案内してもらっています。

今回は、これからダイビングを始めたい人が気になる疑問、「ダイビングってどんな人に向いているの?」に答えてもらいました。

インタビューの合いの手は、引き続きダイビング未経験者のヒトデさんと、ダイビング経験50本のまだまだ初心者イソギンチャクさんです。

上野貴則(うえの よしのり)

千葉県鴨川市にあるダイビングショップ「マイ・ダイブ」オーナー。勝浦でダイビング・インストラクターをはじめ、今年で歴17年。これまでに潜ったダイビング本数は9,000本。うち95%は勝浦で潜る生え抜きダイバー。PADIダイビング・マスター、スクーバ・ダイバー、トレーナー。

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カバー写真は、マイダイブのインストラクター、マサトさん。週末だけ東京からピンチヒッターでやってくる。
寡黙で落ち着いた、近くにいると心が静かになるような、僧侶のようなお人柄

第2話 ダイビングは、すべての人に向いている。

ダイビングは競争のないスポーツ

ヒトデさん(ダイビング未経験)
マリンスポーツといえば、ダイビングの他にサーフィンもあるよね。自分にはどっちが向いているんだろう?

イソギンチャクさん(ダイビング経験50本)
うーん、ダイビングとサーフィンは全然違うから比較は難しいな。ノリさん、ダイビングに向いている人ってどんな人ですか?

ノリさん ダイビングとサーフィンにも、いちおう共通点はありますよ。それは、海に入ることが自分のライフスタイルの一部になる、ってところです。

うちのマイダイブには、マサトさんっていう非常勤のインストラクターがいます。マサトさんはライセンスを取りにやってきて、最初の1年で100本*潜ったんですよ。ダイビングではだいたい1日に2本潜りますから、年間50日として週1回は海に通っていた計算になります。
*ダイビングでは1回海に潜ることを、1本、と数えます。

マイダイブで非常勤のダイビングガイドをするマサトさん。ライセンス講習中のお客さんに機材の洗い方を丁寧に指導中。

1年目で100本!すごい。僕なんか3年でようやく50本だもんなぁ。

ノリさん すごいです。それだけ潜ると、もうダイビングが暮らしの一部になっちゃう感覚ですね。サーフィンはもっと気軽にできるから、出勤前に海に入って、また仕事終わりに海に入るなんて人も多いんです。もちろんどちらも、年1回か2回、沖縄や海外に行った旅先で遊ぶだけっていう人も多いですね。

じゃあ逆に、サーフィンと比較した時のダイビングの特徴ってなに?

ノリさん それはたくさんありますけれど、強いて一つあげるなら、ダイビングは「競争がないスポーツ」だってことかもしれません。サーフィンはオリンピック競技にもなってくるぐらいですから、大会が開催されていて、技術に得点をつけることができますね。他のスポーツと同じで、点数で評価をしようとすればできるスポーツです。

でも、ダイビングの世界には一切の競争がないです。たまーに、ダイビング・フォトコンテスト的なイベントはあるけれど、ダイビング自体で何かを競うことはありません。

上手い下手がないってこと?

ノリさん いや、上手い下手はあるんです。磨くべきスキルはちゃんとある。でも、なんていうか、上手いかどうかを気にする人も、気にしない人もいて。どっちでもいいんですよね。

ダイバーによって一人一人、目指しているものが違うってことかな?

ノリさん うーん、あるいは、何も目指さなくったっていい、それがダイビングかもしれないです。それに、ダイビングって、サーフィンほどファッショナブルでもないですから、誰かにカッコつけられるスポーツってわけでもない。最近はおしゃれなダイビングウエアも増えてきてはいますけど、潜る時は全身ウエット着て、BCDとタンクに、グローブ、フィン、マスク、レギュレータ…いろんなものを装着して、こんなにでっかくなりますからね(笑)。

ダイビングは機材と空気タンクをふくめ、30キロ近くを背負う。陸では重いが、水中ではほぼ無重力。

ダイバーはオタク?ギャンブラー?資格マニア?

ますますわからなくなってきた(笑)

これまで海でいろんな先輩ダイバーに出会ったけど、本当にいろんな趣味趣向の人がいるんだよね。「こういう人がダイバーです」っていう典型的な「ダイバー像」が浮かばないんだよなぁ。

ノリさん あえて共通点を言うなら、ダイビングって、ちょっとオタクっぽいんですよね。一人一人、好きなことの方向性がみんなバラバラなんです。そしてその好きなことに、どハマりしているひとが多い。

例えば、ダイバーの中には「ウミウシ大好き!」って人たちが一定数います。ウミウシ好きさんたちは、「レアなあいつが勝浦のダイビング・ポイントに出たらしい」って聞くと、プロ仕様のカメラとライトを持って海にやってきます。そして海中で、1センチもないような小さな生き物に張り付いて、20分も30分もかけて撮影するんですね。これって、アイドルの撮影会に来るオタクとほとんど変わらないと思います(笑)

アイドル撮影会(笑)めっちゃわかります!
推しを最高のアングルで撮りたい!しかも、撮った写真に使い道があるというより、自分で見るために撮っている感じ。

ミチヨミノウミウシ。ウミウシは貝殻が退化した貝類で、その数世界でなんと3000種類以上。
形状もサイズも色も多種多様で美しく、フォト派ダイバーに人気の被写体。(写真提供:マイダイブ)

ノリさん そうそう、「推し活」ですね。逆に「大物の群れ推し系」の人たちもいます。彼らはギャンブラー気質って感じですね。勝浦にはカンパチの群れがいる「ウマノセ」っていうポイントがあるんですが、その群れ狙いで来るコアなファンがいまして。魚群を求めてガンガン泳ぐ、超ハードなダイビングをします。

それのどこがギャンブラー気質なの?

ノリさん 100%魚の群れに当たるとは限らないからですよ!何度潜っても、たくさん泳ぎまわっても、まったく魚に出会えないで帰る日もある。相手は生き物ですから、行ってみないといるかわからないんです。だから群れに当たると、「キタ!カンパチすげえ!勝浦の海最高!」ってアドレナリンがドバッと出るんですね(笑)。

アドレナリン大放出!
それ、一度ハマったらやめられなそうですね。

ウマノセのカンパチの群れに遭遇するダイバーたち(写真提供:マイダイブ)

ノリさん あと、伊豆にはハンマーヘッドシャーク*っていう、頭がハンマーみたいな形のサメの群れが出現します。ハンマー好きダイバーたちは、その季節になると群れを求めて何度も潜りに行くんです。1日に4本ぐらい潜る人がいます。

サメって危なくないの?襲ってきたりしない?

人間を襲わないサメはたくさんいるんですね。ちなみに、館山の伊戸ダイビングサービスには、餌付けされたサメの群れと触れ合えるシャークスクランブルが楽しめるポイントがありますよ。お客さんを一度連れていくと、ハマって何回も行く人がいます。

伊戸ダイビングサービスのシャークスクランブルは国内だけでなく海外からくるダイバーにも人気のポイント。サメが群れ群れ。

多様性ですねぇ。
ダイビングライセンスの取得に情熱を燃やしてる人もいますよね。

ノリさん そうそう。資格マニアのダイバーもいますよ。PADI*にはいろんな種類のダイビングライセンスがあって、取得するたびにライセンスカードをもらえるんですが、マニアの中にはそのカード集めが趣味で何十枚と持っている人がいます。かたや、「ライセンスなんかどうでもいい」って言って、一番最初に初心者が取るオープンウォーターダイバー・ライセンスだけで1,000本潜っている強者もいるんです。ほんとに人それぞれです。

*PADI = 世界最大のダイビング資格認定機関 [公式サイト]

「生きてるなー!」って実感します

ノリさん自身は、ダイビングのどんなところが好きなの?

ノリさん うーん、そうだなぁ、海入ったらしゃべらなくていいところかな?

いや、ノリさんめっちゃおしゃべりじゃないですか(笑)

ノリさん はい、そうですね(笑)。でもそれはそれとして、言葉で会話できない場所にいく、その非日常な感じがいいんですよね。

あと、「生きてるなー!」って実感します。ダイビングをしている時。

海に入っていると、普通に陸で生きていたら人が経験しない、自然の厳しさを味わいますよね。なんか、すげー海が冷たい時。真冬に海に入って、心臓が止まりそうに寒い時。海中を泳ぎすぎて疲れてへとへとになってる時。海が激しく荒れてて、うねりと流れに抗って必死で泳いでいる時。そんなとき「あー、今、俺生きてるんだなー!」ってすごく感じますね。

それと同時に、海の中にいると「無になれる」

海中ガイド中のノリさん。

海中に無の境地が?!

ノリさん ダイビング中は集中力が必要なので、余計なことを考えちゃダメですから。海の中では自然と雑念がなくなります。私は仕事好きなたちで、仕事から帰って家にいても、何をしていてもついつい仕事のことを考えちゃったりするんですよ。でも潜っている時だけは、何も考えずに没頭していられるんです。

全集中のうちに無を見出し、生きている感覚を研ぎ澄ます……。
ちょっと禅的な(?)世界ですねぇ。

ノリさん どんな楽しみ方をしている人にも共通するのは、自然に触れている!っていう感覚かもしれませんね。

すべての人を包み込むスポーツ、それがダイビング

ノリさん 微小な海の生き物の写真をひたすら綺麗に撮りたいオタクっぽい人も、大物狙いのギャンブラーも、ただ海中瞑想したいだけの人も、資格マニアも。ありとあらゆるタイプの人が共存して一緒に潜れる、それがダイビングなんだと思います。こんな人に向いている、っていうステレオタイプがないんですね。

なるほどー。どんな趣味の人も包摂できる懐の広さが、ダイビングのいいところなんですねぇ。

ダイバーさんたちが海に持ち込むカメラも様々。暗い海中で小さな生き物を顕微鏡撮影することが多く、ライトは特こだわりあり。

ノリさん そうなんですね。だからこそ、ダイビングはどんな人にも向いているんじゃないでしょうか。ダイビングに何を見出すかは人それぞれ。ガイドとしては、そんな「人それぞれ感」に出会えることが一番面白いんです。

ノリさんは、人が好きなんだね。

ノリさん 多分、そうなんでしょうね。

例えば、何人かのダイバーと水中カメラを持って潜りますよね。「ここにダンゴウオがいますよ」って教えると、猛烈なスピードでいの一番に突進してきて写真を撮って、思いっきり生き物を蹴散らしていく人がいる。控えめにいつも後ろの方にいて、誰もいなくなった後に最後にそーっと近寄ってくる人もいる。写真を撮る時も、アングルにこだわる人もいれば、適当にパシャっと撮ってさーっと行ってしまう人もいる(笑)

海って本当に人の本性を表すんです。でも、そこに良い悪いはなくて、あーこの人はこんなふうなんだ、こんな反応するんだーって、一人一人が面白い。その違いが、とにかく面白いんです。

(つづく)

ノリさんの勝浦ダイビング豆知識

個性的なダイビング・ガイドとの出会いを楽しむ

ダイビングガイドって、ノリさんみたいにお話好きの人ばかりなの?

お客さんが多様なように、ダイビングガイドにもいろんなキャラがいます。個性的なガイドとの出会いも、海を楽しむポイントですよ!

私はダイビングに来るお客さんからすると、かなりおしゃべりなガイドだと思います。ダイビングって、実は陸にいる時間の方が長いです。海に入ってない時間も楽しんでほしいのでいっぱいお喋りします。海の中ではもちろんしゃべりませんが、水中ノートにもちょっと冗談を書いたりして(笑)。

ガイドの中には、逆にものすごく無口な人もいます。常連さん相手だったら、時には1日中ひとことも話さないような、寡黙でクールな人もいます。私なんかは、どれだけしゃべるかが勝負!ぐらいのスタンスなので、どうやったら静かにしていられるのか教えてほしいくらいですが…。

魚にものすごく詳しくて、種類をマニアックに解説してくれるガイドさんや、スキル上達が第一!と厳しく指導してくれるガイドさん、ライセンス取得を優先するガイドさんもいます。お客さんのキャラクターが多様なのと同じぐらい、ガイドのキャラクターもさまざまです。

勝浦の海に何度も来るお客さんの中には、一人のガイドのところに決まってくる人もいますし、いろんなダイビング・ショップを転々と経験して楽しむ人もいますね。前にガイドしたお客さんと、別の勝浦のショップのガイドさんに引率されて海で出会うこともたまにあります。

個性的なお客さんとガイドの出会いも、ダイビングの面白さの一つ。海との出会いと一緒に、ぜひ人との出会いも楽しんでくださいね。

もちろん、リピートしてくれるのが一番!
ショップ情報

マイダイブ千葉県勝浦の現地ダイビングガイド

ノリさんが経営するマイダイブは勝浦を拠点とするダイビングショップ。勝浦市内の鵜原と行川のダイビング・ポイントを中心に、館山方面のポイントへの遠征や、ツアーなども行っています。


住所 
〒296-0041 千葉県鴨川市東町1000-7
電話番号 
090-6014-9063(携帯)、04-7094-5778(ショップ)
メールアドレス 
ueno33@docomo.ne.jp(携帯)
info@mydive.jp(PC)
ueno33@hotmail.co.jp(PC)

※日中は海に潜っていることが多いため、初めてのご連絡は携帯電話かメールがおすすめです。


勝浦ダイビング協会所属ショップ一覧

勝浦ダイビング協会では、8つのダイビングショップが連携しています。南房総・勝浦海域の環境保全、海洋生物の調査を通じて、勝浦の海の素晴らしさを世界に伝えています。

ほとんどのダイビングショップは、ウェブサイトに掲載されたメールか電話番号に予約をする仕組みです。各ダイビングショップの情報は以下から!

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この記事を書いた人

ミル房総の編集長・ライター。房総半島の鴨川市に拠点を置いて、地域の人々のライフスタイルを取材している。ダイビングとサーフィン初心者。

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