行川は「ただいま」といって帰る、もう一つの実家(こずさんの物語) 〜なめがわダイビングサービスの人々【第3話】

勝浦の行川漁港の一角にたたずむ「なめがわダイビングサービス」には、海底のでお気に入りの岩場に張り付いた「居着きの魚」のように、何十年も通い続ける常連ダイバーたちがいる。

サービスの経営者、レイコさんにインタビューする中で、勝浦の海にハマって、ここを自分の居場所にしようと決めたさまざまな人たちに出会うことができた。東京から電車に乗って毎週末泊まりで訪れる人、思い切って勝浦に引っ越しまでしてしまった人、世代を超えてお子さんと一緒に通い始めた人まで、ここは個性的な自由人のるつぼだった。なぜ彼らはここに集まり、ここに留まるのだろう?

なめがわにほぼ毎週末、ダイビングにやってくるという、常連ダイバーのこずさんに話を聞いた。

なめがわダイビングサービスとは?

千葉県の房総半島の外房、勝浦市の行川漁港にあるダイビング拠点。鵜原漁港の「勝浦ダイビングサービス」と並んで、勝浦の海の多彩なダイビングポイントを提供している。関東全域の多くのダイビングショップ・オーナーや、個人のダイバーが訪れる。

なめがわダイビングサービスのウェブサイトはこちら

勝浦ダイビング協会の所属ショップ一覧はこちら

どこかに「行く」んじゃなくて、「帰る」感覚かもしれない

こずさんは、東京からJRわかしおで毎週末、勝浦の行川ダイビングサービスにやってくる。

「毎週末?」と聞き直すと、さもない様子で、ふふふ、とこずさんは笑って言った。
「ほとんど毎週末。土曜の朝にやってきて、日曜日に帰るんです」

なめがわダイビングサービスの常連ダイバー、こずさん。東京からJR特急わかしおで勝浦に通う。

こずさんの日常は、ほとんど東京と勝浦の二拠点生活に近い。月曜から金曜までの平日は東京で会社勤めをし、週末が来ると、土曜の朝7時に東京駅を出て、JR外房線のわかしおで行川アイランド駅に降り立つ。そして、土日の2日間を勝浦の海に潜って過ごすのだ。

「毎週末、勝浦に泊まりで来るなんて、大変じゃないんですか?」
こずさんは首を振る。
「気合いを入れてくるわけじゃなくて、休むために来るんです」とこずさんは言った。そして、少し考えたあとで付け加えた。
「どこかに『行く』んじゃなくて、『帰る』感覚かもしれない」

週末の家は、ダイバー専用の古民家民宿

こずさんには、なめがわダイビングサービスの取材中に出会った。この施設に来ると、運営側の人なのかお客さんなのかよくわからない人をよく見かけるのだが、そんな人の一人だ。縁側のすみに置かれた古い椅子に座って外をゆったり眺めたり、時々猫をかまったり、経営者のレイコさんに小声で話しかけている。

施設の女主人、レイコさんの声がキッチンから飛んできた。
「こずちゃんは、今年だけでもう100本は潜っているんだよね〜。いっつもいるの。日曜日に東京にとき、『来週空いてる?』って聞くんだから。毎週来るから、ダイビング機材もほとんどここに置きっぱなしなのね」

そんな勝浦に張り付きっぱなしのダイバーたちが週末の宿に困らないようにと、なめがわダイビングサービスはダイバー限定の古民家民宿を運営しているのだから、とても気が利いている。宿泊費は一晩3800円と格安で、こずさんはそこを常宿としている。

レイコさんの言葉を受けてアハハ、と笑い、こずさんは答える。「行川の民宿に着くなり、レイコさんがいつも『ねえ、ご飯食べたの?お腹空いてる?』って聞くの。お母さんがいる家に帰ってきたみたい。」

レイコさんがゲストダイバーさんに準備している手作りの昼ごはん この日はそば飯のようだ

勝浦に通うようになるまで、ダイビングからはしばらく離れていた、とこずさんは言う。久々に友達と東京の近くでダイビングができるところを探した時、勝浦でもダイビングができることに気づいた。伊豆よりもマイナーだし、すいていてのんびり潜れるかも、と軽い気持ちで来てみて、そのまま居着いてしまったのだ。

ダイビングは競争のない、頑張らなくていいスポーツ

「そもそもなぜダインビングをだったんですか?」

「スポーツは競い合うから苦手。でも、ダイビングは競争しなくていい、頑張らないでいいスポーツだから。自分のペースで、自分の好きな方法で楽しめる。でもたくさん潜ってだんだん上手になると、潜ることができる海が変わるんです。」

ダイブマスターとしてインストラクターのアシスタントをするこずさん(右)

勝浦の海も、ハマってしまった理由の一つだと言う。

「勝浦は、ギャンブル性が高い海。濁る、うねる、荒れる、流れるは当たり前!ワイドもマクロも楽しめる。だから毎週、毎日、くりかえし潜っても全然飽きたりしないんです。」

毎週潜るから見えるものもある。

「一年通して自然が変わっていく。海の中では、季節を一番感じられる。海の色が変わる、生き物が変わる、生えている海藻が変わる。その移り変わりが素敵なんですよね」

こどものころの、思い出の夏休みにいるみたい

ダイビングが終わってまったりした時間を、このダイビングサービスの施設で過ごすのもこずさんの日常だ。

「こどものころの、思い出の夏休みにいるみたい。」とこずさんは笑って言う。「海に潜ってぐったり疲れてぼーっとしていたら、急に誰かが『ねえ、かき氷食べたい!』って言い出して。それで炎天下にTシャツに短パンで、坂道を自転車漕いで、かき氷屋に走って行って。そんなことって、大人になってから起きないでしょう?」

なめがわダイビングサービスのキッチン脇でくつろぎタイム

毎週末こどもの心に帰れる場所が、いつもそこにあるなんて素敵だ。人は自分がいる場所を自分で選ぶことができるし、居場所は一つとはかぎらないのだ。こずさんは言う。

「行川は、ただいま!って言って帰る場所。もうひとつの実家みたいなものなんです」

こずさんが通うこの第二の実家はきっと、かつて子供だったジュンジさんが通ったおじいちゃんの夏の家と、時間と空間を超えて繋がっているはすだ。

(第4話へ続く)

ショップ情報

なめがわダイビングサービス

なめがわダイビングサービスは新勝浦市漁業協同組合が運営するダイビングサービス兼ショップ。初心者から上級者までが楽しめる5つのダイビング・ポイントがある。漁港近くの浅瀬では、白くて美しい海底の砂地と、イソギンチャクの群生が見られる。


住所 
〒299-5255 千葉県勝浦市浜行川166-2
電話番号 
080-5053-1835(携帯)、0470-76-3480(ショップ)
メールアドレス 
dive@namegawa-ds.com
営業時間
8:00 AM – 4:00 PM(電話は21時まで)

※2日経ってもメールの返信が無い場合は、迷惑メールに振り分けられている場合が御座いますので、お手数ですがお電話か別メールにて再度ご連絡下さい。


勝浦ダイビング協会所属ショップ一覧

勝浦ダイビング協会では、8つのダイビングショップが連携しています。南房総・勝浦海域の環境保全、海洋生物の調査を通じて、勝浦の海の素晴らしさを世界に伝えています。

ほとんどのダイビングショップは、ウェブサイトに掲載されたメールか電話番号に予約をする仕組みです。各ダイビングショップの情報は以下から!


千葉・房総半島のダイビングサービス一覧

千葉ダイビングサービス協力会に登録する9つのダイビングサービスです。各地のダイビングサービスの多くは、個人のお客さんのガイドと、ダイビングショップのガイドさんへのサービスの両方を行っています。
ここで潜りたい!という方は、ダイビングサービスに問い合わせるか、近隣のダイビングショップにご相談ください。

エリアダイビングサービス
館山エリア【波左間】波左間海中公園
【坂田】シークロップダイビングスクール
【西川名】館山ダイビングセンター 西川名オーシャンパーク
【見物】館山ダイビングサービスSARA
【伊戸】伊戸ダイビングサービス BOMMIE(ボミー)
【沖ノ島】沖ノ島ダイビングサービスマリンスノー
勝浦エリア【行川(なめがわ)】なめがわダイビングサービス
【勝浦】勝浦ダイビングリゾート
勝山(鋸南)エリア【勝山】かっちゃまダイビングサービス
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この記事を書いた人

ミル房総の編集長・ライター。房総半島の鴨川市に拠点を置いて、地域の人々のライフスタイルを取材している。ダイビングとサーフィン初心者。

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