そもそも、千葉でダイビングができるってことを知らない人も多いのでは?東京から1〜2時間と伊豆よりずっと気楽に通えて、一度ハマると病みつきになり、毎週通いたくなっちゃう房総半島の海。実は、この海の面白さの秘密は、暖流と寒流が交わる特殊な地理にあったんです。
千葉ダイビングを盛り上げたい!勝浦に張り付いて17年のダイビングガイド、ノリさんに、房総半島と勝浦の海の秘密を解説してもらいました。
千葉県鴨川市にあるダイビングショップ「マイ・ダイブ」オーナー。勝浦でダイビング・インストラクターをはじめ、今年で歴17年。これまでに潜ったダイビング本数は9,000本。うち95%は勝浦で潜る生え抜きダイバー。PADIダイビング・マスター、スクーバ・ダイバー、トレーナー。
第3話 何千回潜っても飽きない海、勝浦
暖かい海と冷たい海がまじわるところ
ヒトデさん(ダイビング未経験)
千葉でダイビングができるってこと自体、知らない人も多いんじゃないかな?ダイビングといえば沖縄!ってイメージ。本州だと、伊豆半島とか伊豆諸島が有名だよね。
イソギンチャクさん(ダイビング経験50本)
東京に住んでるダイバーでも「千葉で潜れるって知らなかった!」って言う人、結構いますもんね。でも、千葉にハマると、なんとも言えないディープな魅力があるんですよね〜。
ノリさん 千葉の房総半島には、魅力的なダイビングスポットがたくさんありますよ!東京近辺にお住まいなら伊豆に行くよりずっと近くて、電車か車で1〜2時間で来れますし、日帰りもできちゃいます。伊豆と比べるとダイビングショップは少ない分、アットホームで自分のペースで潜りたい人にピッタリです。
ダイビングサービスは、千葉県の館山市、勝浦市、鋸南町勝山の3エリアに全部で9つあります。ポイントは45ヶ所以上。初心者向けの浅瀬から上級者向けの深いポイントまで幅広くて、バラエティに富んでいますよ。
館山にはシャークスクランブルや、時期によってはジンベイザメ、マンボウに出会える場所もありますし、勝浦は体験ダイビングや生き物のマクロ撮影におすすめのビーチから、回遊魚の群れ、地形、マクロまで、さまざまなポイントがありますから、どんな人にも楽しめるんです。
普段、沖縄や伊豆で潜っている人に、「房総半島でダイビングするとこんなところが面白いよ〜」と説明するとしたら、どんな特徴があるんでしょうか。
ノリさん ひとことで言うなら、暖かい海と冷たい海が混ざり合っていることです。
暖かい海と、冷たい海?
ノリさん 中学の地理で習った「暖流」と「寒流」って覚えてますか?日本の太平洋側の海には、北からくる冷たい親潮(千島海流)と、南からくる暖かい黒潮(日本海流)の2つの海流があります。房総半島の外房の沖合では、南からの黒潮と北からの親潮がちょうどぶつかり合っています。だから、両方の海の特徴が混ざり合っているんです。図で見るとこんな感じです。
親潮と黒潮にはそれぞれ、どういう特徴があるんですか?
ノリさん すごーく簡単に言うと、親潮は「濁った冷たい海」、黒潮は「明るくて暖かい海」です。
濁って冷たい海、っていうと親潮が悪く聞こえるかもしれませんが、濁っているってことはつまりプランクトンが多く栄養豊富で、魚が育つ海なんです。だから房総半島の外房は昔から漁がとても盛んですし、ダイビングでは、魚屋さんで見るような美味しそうな魚の群れや、大物の回遊魚に出会えたりします。
ノリさん、勝浦の海をガイドする時、よく魚を指さして「おいしそうですね〜」って言ってますよね(笑)
ノリさん 言っちゃってますね(笑)。あと、マクロ派ダイバーのアイドル、ダンゴウオも寒い海の生き物ですから、たくさん出会えますよ。勝浦では、12月〜7月まで、9か月間も見られるので、他の地域のダイビング・ガイドさんが「え、そんなに長くダンゴが見られるんですか?!」って驚きますね。
一方、透明度が高くて暖かい黒潮は、カラフルで綺麗な魚を運んできてくれます。沖縄や、伊豆半島・伊豆諸島で見られるようなトロピカルな海の生き物も、暖流に乗ってやってきます。イソギンチャクや、みんなが大好きなクマノミもいますし、まれにウミガメやイルカがやってくることもあるんです。
そう考えると、房総半島の海っておトクだね。
北と南、両方の海の生き物が見れるんだから。
ノリさん はい、お得ですね!同時に、海流がぶつかるところですから、潮の流れやうねりが強いのも房総半島の外房の特徴です。だから波が良くて、サーフィンで有名なエリアでもあるんですよね。そうかと思えば、とても穏やかで波のない日もある。南からの黒潮は蛇行していて、いつもまっすぐ流れているわけじゃないんです。黒潮も流れが変わります。その日の潮の流れによって、海が変化するんです。
勝浦の海は、潜るたびにちがう海なんです
ここ数年、ノリさんが拠点にしている勝浦が「100年以上猛暑知らずの涼しい街」として注目を集めてますよね。
ノリさん 勝浦は避暑地として、すっかり有名になっちゃいましたね〜。下の海面水温図を見てみましょう。これは2023年9月1 日のデータを例に出してますが、オレンジに近いほど海面水温が暖かくて、緑に近いほど冷たく表示されます。房総半島の外房の中でも、館山は半島の南端ですから、黒潮が当たって暖かくて穏やかな海なんです。ところが、勝浦のあたりを見ると、この日はちょうど緑色の冷たい海がまざりあっているでしょう?
ほんとだ!海の温度がぜんぜん違うね。
ノリさん こんなふうに、勝浦のあたりは暖かい海と冷たい海がまさに混ざり合っていて、混ざり方も日によって違うんですね。南西の風が沖合から吹き続けると、深いところから冷たい潮が上がってきて、水温がガクッとさがります。勝浦が真夏でも猛暑日がなくて涼しいのはそのためなんですね。
勝浦の海は、潜るたびに違う海なんです。
海流の当たり具合によって、澄んでいたり、濁っていたり。暖かかったり、冷たかったり。魚が群れ群れかと思えば、全くいない時もあったり。流れやうねりが激しかったり、そうかと思えばものすごく穏やかだったり。とにかく変化が激しいんですね。
海の変化って、毎週変わるんですか?
ノリさん いや、もっとです。1日のうちで、1本目と2本目のダイビングで違うぐらい、変化が激しいです。1本目はあんなに海が濁ってたのに、2回目を潜ってみたらめちゃめちゃ透明度が高かった!なんてこともあります。水温も1日のうちで4度ぐらい急に変わっちゃうときもあるんですよ。
えー、1日に4度も変わるんだ!
勝浦特有の現象ですよね。海流って、予測がつかないんです。海流同士がぶつかる時に、跳ね返って流れが変わることもありますし。何十年潜っててもまったく予測がつかなくて、海に入ってみないとわからない。自然をありのまま体験する感じです。そんな勝浦だから、何千回も潜ってガイドをしててもぜんぜん飽きずに楽しめるのかもしれませんね。
勝浦の海は、強いダイバーを育てる
そんなに海が変化に富んでいると、勝浦でダイビングをするのって難しいんじゃないの?普通よりスキルが求められたりしないの?
ノリさん 「勝浦は上級者ダイバー向けでしょ」って思っている人もいます。流れもあるし、海も深いし、ダイビング技術が必要なんじゃないかって。でも、ぜんぜんそんなことないんです。初めての人がのんびり体験ダイビングを楽しめる浅瀬もあれば、水深45メートルにも達する玄人向けの深いポイントもあって、とにかくバリエーション豊富で誰でも楽しめるのが勝浦のすごいところです。
逆に言うと、バリエーション豊富だからこそ、何度も勝浦で潜っているとダイビングの経験値は確実に上がりますね。よく聞く話なんですが、勝浦の常連ダイバーさんが沖縄のダイビングショップに行って「普段勝浦で潜ってます」って言うと、「あ、それならサポートなくて大丈夫ですね!!」って言われるんだそうです。あの海でいつも潜ってるってことは、修行を積んでる人だなって思われるんです(笑)
修行…(笑)
確かに、勝浦ですごーく冷たくて流れが強い海に当たると、「今日は修行日だな」って日、ありますね。まれに流れに逆らって海底の岩を掴みながら移動する時なんか、スリルがあって面白いんです。
ノリさん そうなんですよ。ときどき、いつもは穏やかな海で潜っている人が初めて勝浦に来て、「いや〜、今日の海、流れがすごかったですね!」って言うと、勝浦の常連ダイバーさんたちが「え…?流れなんか全然なかったよね…?」って平然としているってことがあります(笑)。
勝浦のダイバーにとっては、クルクル変わる海が自然で、普通のことなんですよね。いろんな海況に対処するから、感覚やスキルも高くなりますし、穏やかで暖かくて綺麗な海だけじゃなくて、その日その日のいろんな海を楽しめるようになるんです。だから、勝浦の海は、強いダイバーを育てるんじゃないかと思います。
(つづく)
勝浦のダイビングポイントを制覇しよう
勝浦にはどんなダイビングポイントがあるの?
勝浦エリアには、鵜原漁港にある勝浦ダイビングサービスと、行川漁港にある行川ダイビングサービスの2つの拠点があります。どちらも東京や千葉から行きやすいし、面白いポイントがたくさん。ぜひ制覇してみてください!
勝浦の2つのダイビングサービスは、どちらも東京駅からならJR特急「わかしお」で勝浦まで出て、そこからJR外房線で数駅。1時半ちょっとで着けるのでアクセスも良好で、日帰りダイビングも余裕です。勝浦ダイビングサービスは、JR外房線の鵜原駅から車で3分、行川ダイビングサービスは、JR外房線の行川アイランド駅から車で3分。駅まで送迎しますので、車や機材がなくても大丈夫ですよ。
勝浦ダイビングサービス(鵜原漁港)
勝浦ダイビングサービスには「志村ビーチ」「イソムラ」「弁天」「鵜原島」、冬季限定の「ウマノセ」の5つのポイントがあります。
初心者におすすめなのは「志村ビーチ」。ここはちょっとめずらしくて、漁業組合が使わなくなった「いけす」から海にエントリーします。「いけす」の地下トンネルが海につながっていて、そこから外海に泳いで出ることができるんです。ライセンス講習や、初めての方の体験ダイビングはここで行います。
中〜上級者向けなのが「イソムラ」「弁天」「ウマノセ」。ボートで5分〜15分のところにある最大水深25メートル以上のポイントです。アドバンスライセンスがあって30本以上のダイビング経験がある人限定で、特に冬限定の「ウマノセ」は水深45メートルまであり上級者向けなので、50本以上を目安に案内しています。「鵜原島」は今年の春に新しくできたポイントです。
行川ダイビングサービス(行川漁港)
行川ダイビングサービスのポイントは、「新浜」「黒岩」「マグロ根」、5月〜6月限定で開かれる「三郎ゼム」の4つです。
初心者向けは「新浜」。行川にはビーチがないんですが、「新浜」は漁港からボートで数分ととても近くて、最大推進8メートルぐらいの浅瀬ですから、初めての方の体験ダイビングもたのしめます。幻想的なイソギンチャクの群生と、白く広がる砂地がとても綺麗なポイントですよ。
「黒岩」と「三郎ゼム」も最大水深12メートルから20メートルぐらいなので、初心者〜中上級ダイバーまで潜れます。「マグロ根」は最大35メートルほどで中〜上級向けではありますが、水深が10~15メートルぐらいの場所もあるので、行川はどのポイントも、アドバンスライセンスがなくても行ける場合があります。
初心者からマニアックな上級者まで、何千回来ても飽きずに楽しめるのが勝浦の魅力です。ビーチや浅瀬は初心者や体験ダイビング向けだと思われがちですが、空気の減りを気にせずにゆっくりマクロ撮影を楽しめるから、中〜上級者にも人気です。
勝浦にはポイントがたくさんあるので、ガイドはお客さんの希望と経験値、その日の海の様子を検討して案内するポイントを決めます。予定していたポイントで当日流れが強かったら、別のポイントをおすすめできるのが良いところ。まずはダイビングガイドに問い合わせてみてください。
(写真:マイダイブ提供)
マイダイブ(千葉県勝浦の現地ダイビングガイド)
ノリさんが経営するマイダイブは勝浦を拠点とするダイビングショップ。勝浦市内の鵜原と行川のダイビング・ポイントを中心に、館山方面のポイントへの遠征や、ツアーなども行っています。
住所
〒296-0041 千葉県鴨川市東町1000-7
電話番号
090-6014-9063(携帯)、04-7094-5778(ショップ)
メールアドレス
ueno33@docomo.ne.jp(携帯)
info@mydive.jp(PC)
ueno33@hotmail.co.jp(PC)
※日中は海に潜っていることが多いため、初めてのご連絡は携帯電話かメールがおすすめです。
勝浦ダイビング協会所属ショップ一覧
勝浦ダイビング協会では、8つのダイビングショップが連携しています。南房総・勝浦海域の環境保全、海洋生物の調査を通じて、勝浦の海の素晴らしさを世界に伝えています。
ほとんどのダイビングショップは、ウェブサイトに掲載されたメールか電話番号に予約をする仕組みです。各ダイビングショップの情報は以下から!
千葉・房総半島のダイビングサービス一覧
千葉ダイビングサービス協力会に登録する9つのダイビングサービスです。各地のダイビングサービスの多くは、個人のお客さんのガイドと、ダイビングショップのガイドさんへのサービスの両方を行っています。
ここで潜りたい!という方は、ダイビングサービスに問い合わせるか、近隣のダイビングショップにご相談ください。
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