ノリさんは、勝浦の海に張り付いて17年の、ダイビング・インストラクター。昨日も今日も、あしたもあさっても、そこに海があるかぎり、いろんなお客さんを連れて、毎日海に入っていきます。
優しい人柄のノリさんのお店には、普段は陸でお仕事をがんばっているいろいろな種類のお客さんが、いっときの非日常を求めてやってきます。穏やかにガイドしながら、海と人間をそっと観察しているように見えるノリさんには、どんな世界が見えているんでしょうか。海中を巡るダイビングの世界、そこに集まる人々、勝浦の海のオモシロさを案内してもらいましたよ!
合いの手は、ダイビング未経験者のヒトデさん(仮)と、ダイビング経験50本のまだまだ初心者イソギンチャクさん(仮)でお送りします。
千葉県鴨川市にあるダイビングショップ「マイ・ダイブ」オーナー。勝浦でダイビング・インストラクターをはじめ、今年で歴17年。これまでに潜ったダイビング本数は9,000本。うち95%は勝浦で潜る生え抜きダイバー。PADIダイビング・マスター、スクーバ・ダイバー、トレーナー。
第1話 地球の7割は海。潜らないのってもったいないんです。
人はなぜ、海に潜りたがるのだろう?
ヒトデさん(ダイビング未経験)
旅行先のリゾートでシュノーケリングしたことはあるんだけれど、ダイビングになるとよくわかんない。海底に長時間潜るのってちょっと怖そうだし。ダイビング好きの友達は毎週のように海に行って潜ってるっていうんだけど、彼らはなんのために海に潜るの?
イソギンチャクさん(ダイビング経験50本)
たしかに、ダイビングってある意味特殊なスポーツかもしれないな。
改めて考えると、重い機材をえっちらおっちら背負って、僕らはどうしてわざわざ海の中に行きたがるんでしょうね。
ノリさん 多分、海の世界って、究極の「非日常」なのかもしれないです。「非現実」って言ってもいいかもしれない。ダイビングに来る人が求めているのって、そんな日常とかけ離れた体験なんじゃないかな、と思います。
ダイバーって、陸ではものすごく忙しいお仕事の人がすごく多いんですよ。たとえば看護師さんとか、医療関係者の人とか。実は私の奥さんも助産師をしていて、「ダイビングのライセンスを取りたい」ってやってきて出会ったんです。どうして始めたの?って聞いたら、「現実から逃避したくて」って言ってましたね(笑)。
現実逃避は必要だよね。ノリさんはオフの時に奥さんとかお子さんと一緒に潜ることもあるの?
ノリさん うちは4人子供がいるんで、子育てが忙しくて奥さんは今は潜ってないんです。子供が生まれる前はよく潜ってたんですけど、家族だからつい厳しく指導しちゃったら「もう嫌だ、他のインストラクターに教えてもらう!」ってやめちゃいました、現実逃避どころじゃないって(笑)。子供たちもまだ今んところ、なかなか興味を示してくれないんですよね。
それ多分、インストラクター家族のあるあるですね(笑)
ノリさん このあいだ、アメリカで沈没船タイタニック号を見に行った人たちが、海底で潜水艇が崩壊して亡くなりましたね。海底3千メートルですよ。そんな深さに行くなんて、すっげー怖いです。酸素が限られた時間しかもたない場所に命がけで行くんですから。
私たちがダイビングで普段行くのは、せいぜい水深20メートルとか、30メートルとか。でも、タイタニック号を探しに行った人たちと、本質は変わらないかもしれない。タンク1つ背負って海中に潜るって、毎回が未知なる世界へのアドベンチャーなんです。
未知なる世界へのロマン、ちょっとわかるかも。
地球にいながら異世界に行くような感覚かな。
だとすると、海底世界の魅力ってなんなんでしょうね。
ノリさん ちょっとカッコよく言っちゃうと、「地球の7割は海」って言われています。私たちが生きている地球の実はほとんどが海なんです。海底には、解明されていないことがたくさんある。なんなら宇宙よりも解明されていないことが多い、なんて言われています。そんなに広い未知の場所が、手付かずでそこにあって、宇宙よりずっと簡単に、誰でもすぐに行くことができるんです。潜らないなんてもったいないんですね。
海の中では宇宙飛行士になったような感覚さえ味わえちゃいます。陸と海はつながっていて、海底には山や谷があります。海中に浮かんで海底を見下ろすと、自分が空を飛んで、崖の上から下を見下ろしているみたいな錯覚に陥るんです。
ダイビングって、べつに上手に潜る必要なんて全然ないんです。魚をいっぱい見て帰ってくる必要だってないんです。ただ、タンクを背負って、海に潜って、その感覚を味わって陸にもどってくる。それだけで、その体験だけで特別なんですね。
海の中では、その人の本性が現れます
ダイビングって、シュノーケリングみたいに魚を見るのが目的とは限らないの?潜っている間、ダイバーは海の中で何をしてるんだろう?
ノリさん それはダイビングに来るお客さん一人一人、ほんとうに求めているものが違うんです。ダイビングほど自由でその人の価値観がでるアクティビティってないかもしれないです。
すごく印象に残ってるお客さんがいます。年配のご夫婦で、ボート・ダイビング*にいらっしゃったんです。さあ潜りましょうか、って時に、旦那さんの方が「俺、海底にいったらブイにからまって待っているから、奥さんと2人で魚を見てきて」って私に言うんです。
*ボートで沖に出て潜るスタイルのダイビング
「いやいや、そりゃまずいです。一人だけ海底に置いて行けないですから!」って言ったんだけど、「いや大丈夫、絶対にブイを握って離れない。約束するから、俺を置いていってくれ」って(笑)
仕方ないので潜水したあと旦那さんを海底のブイに置いて、奥さんの方だけ連れて海をガイドしました。帰ってきたら旦那さんは約束通り、30分ぐらいブイにからまったままじっと動かずに待っててくれました。
えー、その旦那さん、海底でブイにからまって一人で何をしてたんですか?
ノリさん 海底でただぼーっとしていたんですよ。ダイビングにきて、ただ海底で静かに時間を過ごしているのがいい、って人もいるんですね。他にも、ビーチ(浅瀬)に潜って、ひっくり返ってただ海の中を浮いているだけで楽しい、って人もいました。一方で奥さんは景色を眺めて魚を見たい。同じ海に潜っても、夫婦で求めているものが全然違うんです。
人って、本当にひとりひとり違うんです。同じものを見せても、リアクションが違う。ピタッとハマるものが全然違う。海の中に入ると、そんなその人の本性が現れるんですよ。それって、みていてとても面白いんです。
何に感動するかは、人によって全然違うんです
なんか、ダイバーって不思議ないきものなんだねぇ。
ノリさん 海の楽しみ方が人によって全然違うんですよね。もう一組、印象的だったのは、台風の時に体験ダイビングに来たお父さんと、小学生の息子さん2人。予約をいただいてたんですけど、朝、海を見に行ったら、台風の影響で海がすごく濁ってたんですよ。目の前が見えないぐらい濁っちゃってて、こりゃだめだ、と思ってご連絡して「今日はやめた方がいいですねー」って言ったんです。
そしたら、お父さんの方が「お休みを取って勝浦に旅行で来ているから、今日を逃したらもう来れない。なんとかお願いできないか」っておっしゃって。
貴重な有給とって家族連れで旅行にきてたら、天気が悪かろうがそんなに簡単に予定は変えられないもんな。
ノリさん そうなんですよ。うーん、どうしよう、と考えた結果、ロープでみんなを繋いじゃおう!と思いついたんです。「普通に潜ったらみんな行方不明になっちゃいます。3人ともこのロープをしっかり掴んで、絶対離さないでくださいよ!」って言って、プールでしっかり予行練習して、海に入りました。
もちろん海はにごにごで、数メートル先も見えないほどです。私が3人が掴んだロープの端を引っ張って、電車ごっこみたいにぐるぐると、濁った海の中を連れて回ったんです。
めっちゃスリリング(笑)
ノリさん 自分もそんなこと初めてやったので、ヒヤヒヤしました。さぞかし怖くて疲れただろうな〜、大丈夫だったかな〜と思いながら、陸に上がりました。
そしたら、息子さん2人が「ジェットコースターみたいでめっちゃ楽しかった!!!」って大興奮してる。お父さんだけが「怖ぇ〜」ってビビってましたけど、お子さんたちは大喜びなんです。
ああ、そうか、「透明度が高いほどいい」ってオトナの先入観なんだ、ってその時思いました。子供の「楽しい」ってもっと純粋で、海は綺麗で穏やかがいい、魚がたくさんいる方がいい、って思い込みがないんです。
何が正解になるのか、その人がダイビングのどこを好きになるのかは、海に入ってみないとわからないものなんですね。
ノリさん そうなんですね。人が何に感動するか、未知の場所でどうふるまうかって、ほんとうに読めないんです。人だけでなくて、勝浦の海自体にもギャンブル性がある。濁る日もあれば、冷たい日、流れやうねりが強い日もあります。お客さんは毎回青い海を一応期待しているけれど、その日の海がどうなるかなんてその日にならないと読めない。
潜る人と、その日の海、両方が毎回全然違うから、インストラクターの仕事って面白いんですね。だから、毎日もぐっても全然飽きないんだと思います。
(つづく)
ダイビングのはじめ方
ダイビングやりたいんだけど、手始めになにをしたらいいの?
まずはライセンスのいらない体験ダイビングがおすすめですよ。現地のダイビングショップに、気軽に予約をいれてみましょう。
ダイビングはマイナースポーツなので、体験ダイビングしたい、ライセンスを取ってみたいって人がよく「とっかかりがよくわかんない」「どこ行けばいいのかわからない」って言いますね。サーフィンみたいに海辺の大通りにたくさんショップがあれば、「とりあえずはあのショップに入って聞いてみよう」ってなるんですけれど、勝浦のダイビングショップって、あんまりわかりやすい場所にないかもしれません。
興味が湧いたら、まずはショップに電話やメールで気軽に連絡して予約をいれてください。お友達の紹介でくる人も多いですが、初めてのゲストさんには、いきなりお電話いただいて、一人でいらっしゃるかたもたくさんいます。
勝浦の海を経験してほしいから、初めての方から「潜ってみたい」って予約をもらったら、絶対に潜れるように全力でがんばります。勝浦ダイビング協会には9つのダイビングショップがありますが、自分のショップが予約でいっぱいのときには、他のショップさんを紹介したり、ヘルプしあったりして、なんとか希望の日に潜れるように手配したりしています。
ダイビングショップと、ゲストさん、その土地の海は一期一会。一生に1回だけで来ていただくだけの方もいますし、勝浦の海が気に入って続けて潜りに来てくれる人も。さまざまです。どんな人にも、勝浦を味わってもらいたい。ライセンスがなくても、鵜原ビーチでは体験ダイビングも楽しめますよ。
マイダイブ(千葉県勝浦の現地ダイビングガイド)
ノリさんが経営するマイダイブは勝浦を拠点とするダイビングショップ。勝浦市内の鵜原と行川のダイビング・ポイントを中心に、館山方面のポイントへの遠征や、ツアーなども行っています。
住所
〒296-0041 千葉県鴨川市東町1000-7
電話番号
090-6014-9063(携帯)、04-7094-5778(ショップ)
メールアドレス
ueno33@docomo.ne.jp(携帯)
info@mydive.jp(PC)
ueno33@hotmail.co.jp(PC)
※日中は海に潜っていることが多いため、初めてのご連絡は携帯電話かメールがおすすめです。
勝浦ダイビング協会所属ショップ一覧
勝浦ダイビング協会では、8つのダイビングショップが連携しています。南房総・勝浦海域の環境保全、海洋生物の調査を通じて、勝浦の海の素晴らしさを世界に伝えています。
ほとんどのダイビングショップは、ウェブサイトに掲載されたメールか電話番号に予約をする仕組みです。各ダイビングショップの情報は以下から!
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