勝浦の海を切り取る窓と、偏愛から生まれる海ごはん 〜バンザイカフェの陰陽論 【第1話】

「海を眺めながら、美味しいご飯を食べてのんびり黄昏れたいなぁ」と妄想したあなたに、まさにうってつけのカフェがある。房総半島・勝浦、国道128号線沿い、松部(まつべ)漁港の前に建つ白い建物のカフェ、Banzai Cafe(バンザイカフェ)だ。

太平洋を臨み、勝浦の空と海の景色を切り取るアイコニックな2階の窓。マリン・リゾート気分に浸れる美味しいランチに、こだわりのカフェメニュー。心地よい時間に浸れる海辺の空間、バンザイカフェと、互いに相対する個性を生かして人生を織りなす店主夫婦、ナナエさんとケンさんの魅力に迫ってみよう。

Banzai Cafe(バンザイカフェ) とは?

国道128号線沿いにある、千葉県勝浦の海が一望できるカフェ・レストラン。洋食からエスニック、勝浦タンタンパスタまでバラエティに富んだ創作ランチと、カフェタイムにはこだわりの珈琲とオリジナルデザートが味わえる。ヨガスタジオ、Banzai Yogaを併設し、オリジナルグッズの販売も行っている。

Webサイト食べログページ

Banzai CafeBanzai Yoga

勝浦の空と海を切り取る大きな額縁

バンザイカフェを訪れたことがある人に「どんな店?」とたずねたら、きっとその窓について語るだろう。勝浦の海を臨む、その大きな2階の窓は、まるで美術館の絵画を守る額縁のように、あなたが訪れたその日、その時間の海と空の表情を切り取って観せる。

バンザイカフェの2階の特等席。勝浦の海と空を切り取る大きな窓枠が特徴。

店主のケンさんが運営するインスタグラムには、この窓からの景色が毎朝更新されている。釣りを愛するケンさんは、店の仕込み前、朝の時間に海に出て釣り糸を垂らし、その日の朝の海の写真を撮る。毎日ほぼ同じアングル、だからこそ、色彩の変化が際立って描写される。晴れた日の青、曇りの日のゴールド、日の出がひつじ雲に飛び散る赤い光のグラデーション。そんな写真に添えられる、コミカルでちょっとクセのあるコメントが常連さんのひそかな日々の癒しだ。

カフェの窓から見える、勝浦の海にのぼる朝日が美しい。

好きを極めたこだわりの海ごはん

バンザイカフェは、ナナエさんとケンさん夫妻が経営する、勝浦の松部漁港の目の前に位置するカフェ・レストランだ。店主の二人の物語に入る前に、まずはバンザイカフェのメニューとその由来を紹介しよう。

勝浦の漁港周辺は磯料理の和食処や、地元グルメの勝浦タンタンメン専門店が多い。そんな中、バンザイカフェは洋食やエスニックを取り混ぜた創作料理のランチとカフェメニューを出す、この界隈ではちょっと珍しいタイプのお店だ。

洋食の定番人気メニューは、本格的なパッパルデッレ(平打ち)のクリームパスタに、明太クリームパスタ、そして、地元勝浦にちなみ、TVでも紹介されたタンタンパスタ。ご飯物なら、トマトソースのふわとろスペシャル・オムライス。

エスニックなら、人気のパクチー水餃子に、タイ風グリーンカレー、トムヤムフォー。そして、最近登場したトムヤムチャーハン。どれも予想のよりボリューミーで、1つ1つが本格的で、満足度が高い。

もちろんカフェ利用も歓迎だ。こだわりの珈琲に、特製ケーキ、季節の限定シェークなど、甘味もかなり充実している。海を見ながら過ごすひと時にぴったりのトロピカルなドリンクが、季節によってフレーバーを変える。

メニューの特徴を一言で言えば「自由」。海に来た時にまさに感じたい、開放感のある楽しいメニューが看板を彩る。このお店のメニューは、どうしてこんなに自由なんだろう?

「自分たちが大好きな味、思い出の味を集めただけなんです」とナナエさんは質問にそう答え、ちょうど厨房から珈琲を運んできたケンさんを見上げて確認する。「ね、やっぱり、『好き』を選んだ結果こうなったんだよね、私たち?」

「いや、そんなにこだわりがあるわけじゃないです。けど、まあ、そうっすね。」

ケンさんは、控えめに同意する。ご夫婦の個性と関係性が垣間見える瞬間だ。

「どんなメニューであるべきとか、型にはまるようなことを気にしていないだけなんです。自分が好きなものを出しているだけだから」とケンさんは付け加える。

右が店主で調理を務めるケンさん、左が接客を務めるナナエさん。

カナダ在住時代のBANZAIを継承して

ナナエさんとケンさんが集めた「好き」の最初の1つ目は、夫婦が出会ったカナダのレストラン、「BANZAI」だ。

二人はカナダで出会った。ケンさんがすでに勤めていた和食レストラン「BANZAI」に、ワーキングホリデー中のナナエさんが従業員として入ってきたのがきっかけだった。

カナダでのワーキングホリデー中、レストラン「Banzai」の従業員として出会った当時の二人。

「店長さんが京都の洋食屋修行されてた方で、出してくれるまかないが本当に美味しかったんです!夫はお店の立ち上げから参加して、運営から厨房までいろんな仕事を経験させてもらいました。日本に帰った後、勝浦で二人でお店を出すことが決まった時、店長さんにお願いして、お店の名前を継承させてもらったんです。」

こうして店名が「バンザイカフェ」と命名され、思い出の賄いメニューをアレンジしたレシピが誕生したのだ。

好きなものを貪欲に探求し、自分たち流にアレンジしてメニューに取り入れるのがナナエさんとケンさんのスタイルだ。人気のオムライスも、ナナエさんの地元名古屋でケンさんが勤めていたレストランのレシピを受け継いでアレンジした。仲間と通ったあの喫茶店のデザート、二人で食べに行ったあの中華店の水餃子…。ひたすらに食べ歩き、「コレ美味しいな」「どうやって作るんだろう?」と研究を重ねてアレンジを加え、オリジナルメニューを一つ一つ積み上げていった。

「人生に影響を受けた人たちとの繋がりをずっと大切にしたい。だから、『大好きなお店の大好きなメニューだから、継承させてください!』って頼み込んで取り入れたメニューがたくさんあります。彼らのスピリットをそのまま取り込んで、自分たちの味付けで伝えたい。そんなことをずーっと、これまでやってきたんです。」

バンザイカフェの味の原型となったさまざまな地域の店主たちとは、今でもずっと連絡を取り合っている。

偏愛から生まれる独特のフュージョン・ディッシュ

しかし、「人から影響を受けたメニューが多い」というナナエさんの言葉とは裏腹に、バンザイカフェの料理の印象は、「どこかで食べたことがある料理」では全くない。なんというか、バンザイカフェ風としか言いようのない、独特のフュージョン・ディッシュなのだ。確かに何もかも美味しいが、型どおりではないちょっとしたクセがあるような気がする。

「こだわりだけは、ものすごく強いからだと思う。私たち二人とも。」

ものすごく、にものすごく力をこめて、ナナエさんは答える。

「好きを極めていこう!っていうパワーが、私たち、すごいんだと思うんです。お店で出す珈琲の豆一つとっても、これだ!ってものにたどり着くまで、ひたすらたくさんのお店に飲みに行って、納得いくまで研究に研究を重ねていますから。」

バンザイカフェこだわりの珈琲。ランチセットでもカフェタイムの単品でも楽しめる。

ここまででお気づきだと思うが、ナナエさんは、ほとばしるような「陽」のエネルギーを放っている人だ。取材中はテーブルの向かいでちょっと前のめりに座り、情熱的で力のこもった目で、いくぶん早口ながら、言葉一つ一つを強く語る。

「私たち、『クセ』が強いんですね。『譲らなさ』、と言い換えてもいいかもしれない。」

それは十分伝わってくる。目の前に座っているだけでパワーが自分にまで染み込んでくるような人だ。エネルギーの塊のようなこの女性を前に、取材ノートにはこんなメモが溢れる。

「情熱」、「愛」、「こだわり」、「放出するエネルギー」、「開いた心」。

エネルギッシュなナナエさんに相対して、厨房を担うケンさんは一見静かで控えめな印象の人だ。

「あんな感じの恥ずかしがり屋さんなので、前に出るのは得意じゃないんですよ。」とナナエさんは言うが、冒頭で取り上げたケンさんのインスタグラムの文章には、秘めたコミカルさと明るさが漂う。

「苦手だなんて言いながら、SNSは全部主人が頑張ってやってくれてます。今は、新作メニューを上げると、ポストを見て『新作だ〜!』ってお客さんが来てくれるようになったんですよ」

毎日毎日休まず、愛する海の景色を同じアングルから写真におさめ、SNSでその情景への思いを伝え続けることにも、相当の偏愛が必要だ。

パリで生まれた「光の画家」、クロード・モネは、43歳でフランス北部に移り住み、自分の理想の庭と池を作った。その池に浮かぶ蓮を愛し、日々移り変わる色彩を同じアングルから何度も繰り返し描いた「睡蓮」シリーズは、その数、なんと250 点以上に及ぶ。

モネの睡蓮。250点以上におよび作品の一つ。

バンザイカフェから見える海の景色は、カナダで始まる出会いの連続のすえに勝浦に流れ付き、根を下ろすことになった二人の店主夫妻が作り上げた、いわば勝浦版「モネの庭」のような情景なのかもしれない。モネさながら自分たちが選んだ場所で定点観測を続ける二人の軌跡をひもといていこう。

(続く)

ショップ情報

Banzai Cafe(バンザイカフェ)

千葉県勝浦の海が一望できるカフェ・レストラン。ランチメニューはパスタ、オムライスなどの洋食、タイ料理、地元名物勝浦タンタンメンをアレンジした勝浦タンタンパスタを提供。カフェタイムにはこだわりの珈琲とオリジナルデザートが味わえる。ヨガスタジオ、Banzai Yogaを併設し、オリジナルグッズの販売も行っている。


店内イメージ
1階はカウンター席とテーブル席があり、2階はテーブル席の他にソファ席あり。2階からは勝浦の海が一望できる。全24席。終日禁煙。

住所 
〒299-5241 千葉県勝浦市松部1545
※国道128号線沿い、勝浦市松部(まつべ)漁港前の白い建物

電話番号 
0470-70-1580

メールアドレス 
cafe @ banzai-dc.com

営業時間
水曜〜日曜 11:30-18:00
(18:00以降のご利用は予約制)

定休日
月曜・火曜日
※祝日はランチ営業のみ。不定休あり。

支払い方法
カード不可、電子マネー可、QRコード決済可

Webサイト / 食べログ

Banzai Café / Banzai Yoga


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この記事を書いた人

ミル房総の編集長・ライター。房総半島の鴨川市に拠点を置いて、地域の人々のライフスタイルを取材している。ダイビングとサーフィン初心者。