この海が大好きだから、もっとたくさんの人に来てほしくて(ジュンジさんとレイコさんの物語) 〜なめがわダイビングサービスの人々【第1話】

風が冷たい季節になると、訪れたくなるダイビングサービスがある。

キンキンに冷えた冬の海から上がってきて凍えるダイバーを迎える、ドラム缶の薪ストーブ。その上に置かれて湯気を立てる大きな薬缶。横で身体をあたためる大きな猫。

濡れた頭をタオルで拭いて暖をとっていると、施設の主人がのんびりした声で、今潜ってきた海の様子を尋ねる。まるで子供時代の暖かい記憶の一場面のようだ。

「なめがわダイビングサービス」は、勝浦の海に潜るダイバーたちにとって特別な場所だ。人が海を訪れる理由を作りたい、そのために15年前に行川漁港にダイビングポイントを自ら開拓した、経営者のジュンジさん、レイコさんの物語を聞いた。

なめがわダイビングサービスとは?

千葉県の房総半島の外房、勝浦市の行川漁港にあるダイビング拠点。鵜原漁港の「勝浦ダイビングサービス」と並んで、勝浦の海の多彩なダイビングポイントを提供している。関東全域の多くのダイビングショップ・オーナーや、個人のダイバーが訪れる。

なめがわダイビングサービスのウェブサイトはこちら

勝浦ダイビング協会の所属ショップ一覧はこちら

この海が好きだから、もっとたくさんの人にきてほしくてね

「勝浦の海が好きでね」、とレイコさんは答える。

ジュンジさん、レイコさん夫婦は、なめがわダイビングサービスの経営者だ。15年前、ダイビングガイドをしていた二人は一念発起し、新勝浦市漁業協同組合の漁師さんたちと二人三脚で、新しいダイビングポイントを行川漁港に開発した。

「ダイビングサービス」とは、ダイバーが海に潜る時の拠点になる施設である。「ダイビングショップ」はガイドや講習を提供するが、「ダイビングサービス」はショップやダイバーに、海、そのものを貸し出す。いわば、地域のダイビングポイントの守り神のような存在と言ってもいいかもしれない。

なめがわダイビングサービスの施設。漁港の一角にある建物がダイバーの拠点だ。

ダイビングに適した潜水地をいちから開拓し、海の安全管理をする。ダイビングショップに更衣室やシャワー、休憩スペースを貸す。潜水で使う空気タンクを提供し、海にダイバーたちを運ぶ車や船を出す。サービスがなければ、ショップはビジネスをすることができない。生半可な覚悟ではできない商売だ。

冒頭のレイコさんのコメントは、そんな背景も踏まえて、「どうしてダイビングサービスなんて難しいものを始めようと思ったんですか?」と尋ねた質問への答えだ。海のガイドから戻り、キッチンでお客さんのご飯をこしらえ、猫に餌をやり…、と止まらない足を止めてもらってお話を聞いた。

おじいちゃんと過ごした思い出の海、勝浦

ジュンジさんは千葉の土気(とけ)の生まれだという。勝浦からは車で1時間強。土気は千葉でも比較的内陸にあり、どちらかといえば海というより、山に囲まれた地域だ。

「勝浦には、旦那のおじいちゃんの家があったの。小さい頃からこの海が大好きで、毎年夏休みはおじいちゃんの家で過ごしていたんだよ」とレイコさんは回想する。

その思い出の夏の家は、祖父が亡くなってから空き家になっていた。幼い頃からの海好きが高じて伊豆でダイビング・インストラクターをしていたジュンジさんは、同じくダイバーのレイコさんと出会い、その空き家に移り住んで一緒にダイビングショップを始めることにした。

冬場は手作りのドラム缶ストーブで暖をとる 自然と人と猫が集まる中心的な空間に

勝浦市には当時ダイビング拠点が1つしかなかった。鵜原漁港の「勝浦ダイビングリゾート」だ。鵜原は初心者向けのビーチから上級者向けの水深の深いポイントまで、ポイントが豊富な人気のダイビング・スポットである。二人も当初は鵜原漁港を拠点にガイドをしていたが、なにか物足りなさを感じていた。

「鵜原はすごくいいポイント。でも、もっとたくさん潜れる場所があったら、勝浦の海にお客さんが増えるんじゃないかって、うちの旦那さんと話してね。この海が大好きだから、もっとたくさんの人に来てほしくてさ。だから、勝浦にもう一つ、拠点になるダイビングサービスを作ってみようって思ったの」

漁師さんとの二人三脚 ダイビングサービスができるまで

とはいえ、ダイビングサービスの開設はかんたんではなく、当然、二人の意思と努力だけでできるものではなかった。海は、地元の漁師や海人さんの大切な資源だからだ。二人はまず、漁業組合に相談をもちかけるところからはじめることにした。

ダイバーが水産資源を荒らすことを心配して、保守的な組合も多い。しかし、勝浦の漁業組合はダイビングに前向きだった。

「漁港はほっといたら人が減って寂れてしまう。だから、ダイビングを通じて新しい人がたくさんやって来て浜が明るくなるのは良いね、って言ってくれる、すごく良心的で前向きな漁師さんが多かったんだ」とレイコさんは振り返る。

サービスの運営を行うなめがわのスタッフたち

設立が決まったら、最初の仕事は「ポイント探し」だ。ポイントとは、ダイバーが海中観光OKのエリアのこと。「ダイビングに適したいい場所ないですかね?」と漁師さんたちに尋ねて回った。勝浦の漁師さんや海人さんは、素潜りやヘルメット潜水でアワビやサザエを獲る。だから海の地形を熟知しているのだ。

「『あのあたりは綺麗でいいぞ、一緒に1回潜ってみるか?』と教えてくれた場所に、漁師さんと一緒に何十回も潜ってポイントを見極めるんだよ」とレイコさんは説明する。

安全に潜れて、海底の地形が面白く、魚がたくさんいるエリアでなければお客さんは満足しない。しかし、条件はそれだけではない。

「千葉・勝浦は漁師さんがすごく元気で、漁業船の往来もとても多い。だから、ダイビングポイントは、船の航路の邪魔にならなくて、さらに海人さんがあまり潜らないところじゃなければならないの」

漁師さんや海人さんの中には、不特定多数のダイバーが潜ることで、大事なアワビやサザエがいなくなるのではないかと心配する人もいる。「漁業組合と話し合いを重ねて、『ここだったらいいんじゃないの』ってみんなが納得できるポイントを探すんだよ」

時間をかけて、「マグロ根」「黒岩」「三郎ゼム」「新浜」 と名付けた4つのポイントを開拓した。最近は、新たなポイント「向根」にも潜れるようになった。

二人はきっと計り知れない数の話し合いを、地元の人たちと重ねてきたのだろう。「もちろん反対する人もいる。でもじっくり話してみると、みんないい人ばかりなんだよね」とレイコさんはしみじみと言った。

外に目をやると、施設のウッドデッキに座ってタバコをくゆらせながらダイバーたちを見守っている、いつもの漁師さんがいる。二人三脚で施設を回してきた彼らと漁師さんたちは、まるで同じ漁船に乗る仲間のような信頼関係で結ばれているのだ。

新しいのに懐かしい、温度のあるダイビングサービス

そんな風にして作り上げられたなめがわダイビングサービスは、千葉のダイビングスポットの中では新しいと言える。にもかかわらず、この場所にはずっと昔からそこにあったような不思議な懐かしさが溢れている。

人間味…と言うべきものというか、人の温度のようなものが、施設のすみずみに漂っている。そして、長く集うダイバーたちも、その雰囲気を共有しているように見えるのだ。第2話では、その独特の世界観を作り出す経営者のジュンジさんとレイコさんについて語りたい。

(第2話へ続く)

ショップ情報

なめがわダイビングサービス

なめがわダイビングサービスは新勝浦市漁業協同組合が運営するダイビングサービス兼ショップ。初心者から上級者までが楽しめる5つのダイビング・ポイントがある。漁港近くの浅瀬では、白くて美しい海底の砂地と、イソギンチャクの群生が見られる。


住所 
〒299-5255 千葉県勝浦市浜行川166-2
電話番号 
080-5053-1835(携帯)、0470-76-3480(ショップ)
メールアドレス 
dive@namegawa-ds.com
営業時間
8:00 AM – 4:00 PM(電話は21時まで)

※2日経ってもメールの返信が無い場合は、迷惑メールに振り分けられている場合が御座いますので、お手数ですがお電話か別メールにて再度ご連絡下さい。


勝浦ダイビング協会所属ショップ一覧

勝浦ダイビング協会では、8つのダイビングショップが連携しています。南房総・勝浦海域の環境保全、海洋生物の調査を通じて、勝浦の海の素晴らしさを世界に伝えています。

ほとんどのダイビングショップは、ウェブサイトに掲載されたメールか電話番号に予約をする仕組みです。各ダイビングショップの情報は以下から!


千葉・房総半島のダイビングサービス一覧

千葉ダイビングサービス協力会に登録する9つのダイビングサービスです。各地のダイビングサービスの多くは、個人のお客さんのガイドと、ダイビングショップのガイドさんへのサービスの両方を行っています。
ここで潜りたい!という方は、ダイビングサービスに問い合わせるか、近隣のダイビングショップにご相談ください。

エリアダイビングサービス
館山エリア【波左間】波左間海中公園
【坂田】シークロップダイビングスクール
【西川名】館山ダイビングセンター 西川名オーシャンパーク
【見物】館山ダイビングサービスSARA
【伊戸】伊戸ダイビングサービス BOMMIE(ボミー)
【沖ノ島】沖ノ島ダイビングサービスマリンスノー
勝浦エリア【行川(なめがわ)】なめがわダイビングサービス
【勝浦】勝浦ダイビングリゾート
勝山(鋸南)エリア【勝山】かっちゃまダイビングサービス
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この記事を書いた人

ミル房総の編集長・ライター。房総半島の鴨川市に拠点を置いて、地域の人々のライフスタイルを取材している。ダイビングとサーフィン初心者。

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