パワーオブ・トゥー。光と影を交代し合う男と女 〜バンザイカフェの陰陽論 【第4話・最終話】

目標や夢の実現に、人は考えるより長い年月走らなければならない。その間、価値観や考え方は同じままではなく、心や身体が変化し、夢そのものすら軌道修正されていく。バンザイカフェを舞台とするロードムービーでは、人生の長旅を心地よいペースで走り続けるために、夫婦というパートナーが運転を交代しながら進んでいる。

Banzai Cafe(バンザイカフェ) とは?

国道128号線沿いにある、千葉県勝浦の海が一望できるカフェ・レストラン。洋食からエスニック、勝浦タンタンパスタまでバラエティに富んだ創作ランチと、カフェタイムにはこだわりの珈琲とオリジナルデザートが味わえる。ヨガスタジオ、Banzai Yogaを併設し、オリジナルグッズの販売も行っている。

Webサイト食べログページ

Banzai CafeBanzai Yoga

淡々と一つのことを続けられる才能

ナナエさんがダイビングで奮闘し、人生の慧眼を得てヨガ・インストラクターに転向するなどのドラマを繰り広げる中、ケンさんは淡々と、しかし着実に、飲食店としてのバンザイカフェの存在を勝浦に定着させていった。

「開店から6年目ぐらいかな。いつのまにかカフェのお客さんが増えていったんです。」とナナエさんは振り返る。「彼はずっと変わらず、ただ淡々と自分が美味しいと思う料理を作りつづけ、地道に怠けずインスタグラムに写真をあげ続けてきただけ。お店のコンセプトを変えたわけでもなんでもない。でも、お店の存在に気づいてもらえるようになっていきました。」

一つのことをずっと飽きずに続けられる才能は、長い時間の中でこそ意味を持つ。いつのまにかTVなどのメディアに取り上げられる機会も増え、遠くからわざわざ訪れるお客さんも増えていった。

バンザイカフェの1階の店内。壁のデコレーション一つ一つに好きとこだわりが詰まっている。

ここにいると、毎日が楽しくて幸せ

「毎日楽しいです。」

おすすめのパクチー水餃子を平らげたあと、1階の厨房に降りてケンさんに「どんな人生ですか?」と質問すると、店主のケンさんは微笑んでキッパリとそう答えた。短いが確信を持った答えだった。なぜですか?と重ねて尋ねた。

エスニック好きにはたまらないパクチー餃子。モチモチ生地の水餃子に香味が効いたスープがやみつきになる美味しさ。

「なんでだろう?多分、好きな環境で、自分たちのやりたいお店ができているから。」

都会が苦手だ、というケンさんは千葉県の田舎で育った。子供の頃から釣りと登山が好きで、自然がいつも身近にあった。大学進学の時にも周囲が東京の大学を選ぶ中、わざわざ都心を避けて田舎の大学を選んだほどだ。

料理の手を止めず、しかし悠々と厨房の中を移動して仕事をこなしながら、ケンさんはゆっくりと考えを語った。

「ここにいると、すごく幸せな気持ちになるんですよ。店の目の前に海があって、毎朝料理の仕込み前に歩いて釣りに行けちゃうし。地域の祭りも好きだし。僕は本当は海より山好きなんだけど、房総半島には面白い低山もたくさんありますし。こんな環境で生きられて、やりたかった商売ができて、本当に幸せだなって思います。」

満面の笑顔でそう答えるケンさんは、ナナエさんとはまた違った種類の、人を和ませる明るさの持ち主だ。間近でお話を聞くまでは、ナナエさんの強烈なエネルギーに圧倒されて、陽キャと隠キャの凸凹カップルなんだな、なんて失礼ながら思い込んでいた。しかし目の前のケンさんからは、自分自身と自分が求めるものを知り尽くした人だけが持つ、マインドフルで揺るぎないあり方が伝わってくる。

接客を終えて厨房に降りてきたナナエさんが、まるで心を読んだかのような解説を加えた。

「見てもらうとわかるように、夫は全然ガツガツしてないんです(笑)。攻める、切り込むってタイプではなくて、今自分ができることをしよう、って考える人。一方で、私は常に新しい可能性と、やりたいことを探している人。私たち性格は全然違うんだけれど、二人とも人に雇われてあれこれ言われるよりも自由にやりたい、自分の世界を持ちたいってことでは一致していたんですよね。」

それが二人がぶつからない秘訣ですか?と聞くと、「ぶつからないですよ〜(笑)」とナナエさんは笑う。「だから一緒にここまで来れたんだと思います。私が新しいことに挑戦する間、彼は一途に一つのことをできる人だから。」

聞き慣れている言説なのか、ケンさんは妻が語る自分の話を軽い微笑みを浮かべて無言で受け流している。夫妻は厨房とフロアを行き来しながら、ちょっとした談笑と世間話を交えつつ、流れるようにそれぞれの役割をこなしていく。

羨ましい関係ですね、というと、「24時間一緒に働いていますからね」と言いながら二人は笑う。

二人で一人、最強のクリエイティブ・ペア

「POWERS OF TWO〜二人で一人の天才」という本をご存知だろうか?世界で孤高の天才と称された人たちは、実は二人組だった、という事実を解き明かしたノンフィクションだ。一人の力では何も生まれない。刺激し補完し合う、性格と能力が違う「ペア」こそが、最強にクリエイティブな仕事を成し遂げる。

強い野心と情熱で、ブルドーザーのように新境地を開拓する突撃隊長のナナエさんと、そのスピードとパワーに決して振り回されない稀有な安定感と冷静さを持ち、独自の世界観を守るケンさん。だが、補完し合うこのペアは、一面的な光と影のコンセプトでは語ることができない。

あるいは、ナナエさんが教えるヨガとも関係が深い陰陽論なら、少しはこの二人を説明する役に立つかもしれない。陰陽思想では万物を積極的・動的な「陽」と、消極的・静的な「隠」の性質に分けてそのバランスで世界を説明するが、「陽」と「隠」は拮抗するものではない。むしろ全ての存在は、その両方の性質を内包していると考えるらしい。

ナナエさんがダイバーとしてフロントに立つ時、ケンさんはバックヤードでその仕事を支えてきた。今、ケンさんが店主としてフロントに立つとき、ナナエさんはそれを後ろで支えている。夫婦はそんなふうにダイナミックに陰と陽、影と光の役割を交代しあいながら、自分たちが作りたい世界をコツコツと作り上げてきたのだ。

男と女はずいぶんよくできている。夫婦とは、かくもクリエイティブなペアになりうるのだ。

勝浦での商売は、経営的にはどうですか?と尋ねると、少し迷いながらケンさんは答えた。

「商売となると、勝浦は人口も少ないですし、観光客は夏とゴールデンウィークに集中して、冬はお客さんが少ないです。気楽に遊びに来るには、高速道路からも離れていますしね。まあ、もうちょっと年間通して平均的になればいいのにな、って思うこともあります。」

そう言ったあと、「でもね」と笑って付け加えた。「かといって、混み合っちゃうのはちょっと嫌なんですよ。今の感じがちょうどいい。料理も、釣りも、僕にとって今のライフスタイルは、遊びが生活にできる最高のバランスです。だから毎日が楽しい。僕らは、自ら選んでここで商売をしているわけですから。」

(おわり)

ショップ情報

Banzai Cafe(バンザイカフェ)

千葉県勝浦の海が一望できるカフェ・レストラン。ランチメニューはパスタ、オムライスなどの洋食、タイ料理、地元名物勝浦タンタンメンをアレンジした勝浦タンタンパスタを提供。カフェタイムにはこだわりの珈琲とオリジナルデザートが味わえる。ヨガスタジオ、Banzai Yogaを併設し、オリジナルグッズの販売も行っている。


店内イメージ
1階はカウンター席とテーブル席があり、2階はテーブル席の他にソファ席あり。2階からは勝浦の海が一望できる。全24席。終日禁煙。

住所 
〒299-5241 千葉県勝浦市松部1545
※国道128号線沿い、勝浦市松部(まつべ)漁港前の白い建物

電話番号 
0470-70-1580

メールアドレス 
cafe @ banzai-dc.com

営業時間
水曜〜日曜 11:30-18:00
(18:00以降のご利用は予約制)

定休日
月曜・火曜日
※祝日はランチ営業のみ。不定休あり。

支払い方法
カード不可、電子マネー可、QRコード決済可

Webサイト / 食べログ

Banzai Café / Banzai Yoga


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