カフェとしての新たな道と、Banzai Yogaの誕生 〜バンザイカフェの陰陽論 【第3話】

勝浦に移住したケンさん、ナナエさん夫妻は念願の独立を果たし、ダイビングショップ兼カフェ、「ばんざいダイバーズ」を開いた。ダイビングガイドとして先頭に立つ妻と、料理人として店をバックアップする夫。そんな夫婦二人三脚のスタイルを続けていくうちに、ナナエさんの人生観が少しずつ変化していった。

Banzai Cafe(バンザイカフェ) とは?

国道128号線沿いにある、千葉県勝浦の海が一望できるカフェ・レストラン。洋食からエスニック、勝浦タンタンパスタまでバラエティに富んだ創作ランチと、カフェタイムにはこだわりの珈琲とオリジナルデザートが味わえる。ヨガスタジオ、Banzai Yogaを併設し、オリジナルグッズの販売も行っている。

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Banzai CafeBanzai Yoga

人を信じ、人に任せる。軌道に乗り出したバンザイカフェ

ばんざいダイビングの経営が6年目差し掛かった時、「もう潮時かもしれない」とナナエさんは思った。40歳をすぎた頃だ。

それまで、ナナエさんは常に夫婦の船頭だった。第一線のプレイヤー、前線の兵士、車で言えばドライバー。ナナエさんが引っ張ってきたダイビングショップを、ケンさんは料理人として陰で支えてきた。

バンザイカフェはその6年の間に、徐々に飲食店として軌道に乗り始めていた。ケンさんが始めたインスタグラムから徐々にカフェの魅力と料理の美味しさに人々が気づき、一般のお客さんがつき始めた。SNSをみて新作料理を目的に店を訪れる人が増えていったのだ。

厨房に立つケンさん。オリジナルメニューを開発し、一人で調理をこなす。

同じ頃、ナナエさんは子宮筋腫の手術を経験することになった。熱意に反して、女性が毎日海に潜って身体を冷やし、過酷な労働を続けることの難しさを身をもって知った。

「前へ、前へ。私が、私が。ずっとそんなふうに生きてきました。自分がみんなを引っ張って頑張らなきゃって。でも、自分の中で何かが少しずつ変わっていったんです。もしかしたら、自分が前に立つのではなく、誰かを支える生き方だってあるのかもしれないって。」

体力勝負のダイビング業界である。男に負けてられないと身体に鞭を打って潜りつづけてきた。人はリスペクトを込めてナナエさんを「ナナオ」と呼んでいた。勝浦のダイビングの開拓者の一人として、最前線を走っている自負もあった。しかし、女としての身体は悲鳴をあげていたのだ。

ふと立ち止まって周りを見回すと、たくさんの良いダイビングショップが育っていることに気づいた。勝浦にはこんなに素晴らしい、信頼できるダイバーがいる。一つの役目を果たしたのかもしれない、とナナエさんは考えた。

「人を信じる、人に任せる。自分のお店も、勝浦ダイビング協会も、自分が最前線で戦うんじゃなく、信頼できる人たちに任せて後方支援に回るっていう、大事なものの守り方がある。そう思えるようになったんです。」

ナナエさんはダイビング・インストラクターを退いた。そして、ケンさんが店主として料理を作り、ナナエさんが接客をする今のバンザイカフェのスタイルが生まれた。

ヨガインストラクターへの道。そして、Banzai Yogaの誕生へ

こうしてバンザイカフェは人気のカフェになりましたとさ、めでたしめでたし。では、もちろん終わらない。サポート側に回るとしたら、とことんその「サポ道」を極めるのがナナエさんのやり方である。

バンザイカフェの2階スペースを利用してヨガスタジオ、「Banzai Yoga」がオープンしたのは、2014年だった。

カフェの2階スペースで開かれるBanzai Yogaのレッスン風景。さまざまな年代の生徒さんが集まる。

「ダイビングと並行して、ずっと好きでやってきたのがヨガでした。ヨガの考え方や身体について深く学ぶうちに、もっと自然にしたがった生き方が、女である自分の身体になじむことを知ったんです。どうしても性格的に、何事も極めようと思っちゃうんですよね(笑)。」

ヨガのインストラクターの資格を取ったナナエさんは、開店前の10時から11時、開店後の6時半から7時半までの時間を使ってヨガレッスンを始めた。来たい人が、来たい時に予約する自由なドロップイン方式のスタジオだ。勝浦の大自然を活かしたビーチヨガや、海が360度眺められる八幡岬公園でのパークヨガなど、海のエネルギーを一身に受けられるさまざまなプログラムも積極的に取り入れていった。

「Banzai Yogaには10年以上通い続けてくれている常連さんがたくさんいます。勝浦に旅行でやってきてヨガをしたくなった飛び込みのお客さんも来てくれますよ。」

ダイビングがヨガに変わっても、インストラクターとしての基本スタンスは変わらない、とナナエさんは言う。

「勝浦の海って、常連ダイバーさんがいつもそこにいてまったりしてるじゃないですか(笑)。ヨガでも私はそんなふうに、一人の人と長く付き合っていきたい。同じ人の日々のコンディションの微妙な変化を観察して、そこに自分がどうアプローチできるかを考えたい。人は海と同じ自然の一部です。生き物は自分がコントロールできるものじゃなく、自然のコントロール下にあるものだから。自然や生き物を扱うことにはやりがいがあります。やっぱり好きなんですよね、そういう仕事が。」

アクセルがついた助手席に座るインストラクター

お店にはナナエさんが手掛けるオリジナル・ヨガウエアのコーナーがあり、自分で取り寄せたさまざまなグッズの販売もしている。

このヨガウエアがまた優秀だ。海辺のヨガスタジオらしい水陸両用のストレッチ素材で、スリムなのに絶妙に体の線を拾わない優れもの。デザインから縫製まで、ナナエさんが自分で手掛けている。

前線から退いた兵士のように自分を語るナナエさんだが、本当にそうだろうか?車に例えるなら、ドライバーシートから助手席に移ったようにみせかけて、自動車教習所の特別車のように、助手席にもしっかりアクセルがついてるんじゃないか?と疑わずにはいられない。

ナナエさんがダイビング・インストラクターを辞めたことを今でも惜しむ人は絶えない。そんな声を聞く時、ナナエさんは行川ダイビングサービスでショップやお客さんのお世話役をこなすレイコさんのことを思う。今でもナナエさんのロールモデルだ。

「自然、なんです、今の自分が。選んでそうしたから、悔いはないんです。レイコさんもそうだと思う。前に出ない。でも、圧倒的な存在感がある。みんな彼女に会いたくて海にやってくるでしょう?たくさんの素晴らしい仲間に囲まれて。今までの生き方と形は違うけれど、自分もそんなふうになりたいって思えるようになったんです。」

どんなに後ろに下がろうとも、自然と放ってしまう光は隠せない。バンザイカフェも、ナナエさんの存在感で溢れている。

(つづく)

ショップ情報

Banzai Cafe(バンザイカフェ)

千葉県勝浦の海が一望できるカフェ・レストラン。ランチメニューはパスタ、オムライスなどの洋食、タイ料理、地元名物勝浦タンタンメンをアレンジした勝浦タンタンパスタを提供。カフェタイムにはこだわりの珈琲とオリジナルデザートが味わえる。ヨガスタジオ、Banzai Yogaを併設し、オリジナルグッズの販売も行っている。


店内イメージ
1階はカウンター席とテーブル席があり、2階はテーブル席の他にソファ席あり。2階からは勝浦の海が一望できる。全24席。終日禁煙。

住所 
〒299-5241 千葉県勝浦市松部1545
※国道128号線沿い、勝浦市松部(まつべ)漁港前の白い建物

電話番号 
0470-70-1580

メールアドレス 
cafe @ banzai-dc.com

営業時間
水曜〜日曜 11:30-18:00
(18:00以降のご利用は予約制)

定休日
月曜・火曜日
※祝日はランチ営業のみ。不定休あり。

支払い方法
カード不可、電子マネー可、QRコード決済可

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Banzai Café / Banzai Yoga


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