勝浦漁港にある「なめがわダイビングサービス」で、勝浦の海の面白さにハマり、東京からの移住を決めてしまったダイビングインストラクター、まっつんに出会った。勝浦で暮らし、平日は都内の企業で会社員をしながら、週末はダイビングインストラクターをこなす、二足草鞋の忙しい暮らしだ。
コロナ禍以降、リモートワークが浸透して、人は職場にとらわれず、生きる場所をもっと自由に選べるようになった。なぜ移住を決めたのか?なぜ勝浦だったのか?その自由なライフスタイルと勝浦の海の魅力を伺った。
千葉県の房総半島の外房、勝浦市の行川漁港にあるダイビング拠点。鵜原漁港の「勝浦ダイビングサービス」と並んで、勝浦の海の多彩なダイビングポイントを提供している。関東全域の多くのダイビングショップ・オーナーや、個人のダイバーが訪れる。
旅に出なくても、海のほうから来てくれる
なめがわダイビングサービスには2匹の保護猫がいる。1匹はみかん色のブー太郎、もう1匹は三毛猫のミケ子だ。
ブー太郎は夏の時期にはキッチンの横の床を陣取る。引っ込み思案なミケ子は、人通りが少ない階段下に専用の個室を与えられている。いつもは別行動の2匹の猫たちは、冬になると無言で同意し合い、ドラム缶ストーブの横の特等席を陣取って暖をとっている。
そんな猫たちを横目に、レイコさんに「ベテランダイバーがハマってしまう勝浦の海の面白さって、なんなんでしょうか?」と質問していると、施設の部屋の向こうの角から、男性の明るい声が飛んできた。
「勝浦の面白さは、海流の向きなんですよ」
振り返ると、見るからにひとなつっこそうな笑顔のウエットスーツの人が立っている。通称まっつん。なめがわダイビングサービスの非常勤インストラクターだ。さっき海から上がってきたばかりのようで、濡れたスーツを肩まで脱いでいる。
「勝浦の海では、南から来ている黒潮と、北から来てる親潮がちょうど交差しています。その日の海流の動きで海が毎日変わるんです」と、まっつんは続けた。「黒潮が入る日には、南の海がきてくれる。親潮の日は、北の海が来てくれる。」
海が来てくれる?
なんだか面白い表現をする人だな、と興味を惹かれて尋ねた。「海が来てくれるって、どういう意味ですか?」
「その日その日で、海流に乗ってここに来てくれる生き物が変わるっていう意味ですよ。例えば、チョウチョウウオの仲間で、ユウゼンっっていう魚がいるんです。ユウゼンは普通は八丈島にいる魚なんですけれど、黒潮が流れる日は勝浦でも観られるんです。八丈島の人にそう言うと、びっくりされますよ。」
「勝浦にいれば、旅行いかなくていいんです。海のほうから来てくれるんですから」
え、<旅行になんか行かなくても、海の方から来てくれる by 勝浦 >?
「めちゃくちゃイイこと言いますね。観光コピーみたいです」と関心して言うと、まっつんはにっこり笑った。
この人は何者だろう?とちょうど興味が湧いたところで、話を聞いていたレイコさんが解説を入れた。
「まっつんは普段は月〜金で東京で会社勤めをしていて、週末はここで働いているの。うちのエースなんですよ。明るい性格がダイバーのおじさんたちに大人気なんだよ」
勝浦に移住を決意 会社員とインストラクターの二足草鞋生活
元々はお客さんとして通っていたというまっつんは、インストラクターの資格をとって非常勤を始めた。
会社員としての自分とダイビングインストラクターとしての自分、そのどちらが本業なのかは本人にもわからない。もともとは千葉県船橋市の家から東京の職場に通い、週末だけ勝浦に通っていたが、コロナ禍で会社の出勤義務が減ったのを機に、思い切って勝浦にまるっと移住してしまったのだ。
こずさんといい、勝浦の海で会うのはそんな人ばっかりじゃないか。そう思いながら聞いていると、レイコさんが心を読んだようにこちらを向いて「あなたと一緒だね!東京と房総で二拠点生活でしょう?みんな一緒、そんな人ばっかり。都会の人は心が病んでいるのかしらねぇ」と言ってアハハと笑った。
「ミケ子がいないと生きていけないのよ、まっつんは。ここに、海と猫に癒されにきているのね」
自分が生きる場所を自由に選ぶということ
「勝浦に引っ越してきて本当によかったです」とまっつんはしみじみと言った。「もともと自然が好きだから勝浦に通っていたんですね。今の家には庭があって、はじめて自分で茄子を栽培しました。収穫して料理して食べて、おいしさに本当に感動しましたよ。最高です」
食うための仕事にとらわれずに生きる場所を選び、本業・副業といった固定概念をもたずに仕事を選んでいる。まっつんの生き方は、とことん自由で能動的だ。
コロナ禍以降、働き方が自由になり、暮らす場所を選べるようになった人は多い。「好きな土地へ行き、好きに生きろ。あなたは自由だ」と言われた時、そんなふうに真っ先に引っ越して住みたい場所、やりたいことがある人生って素晴らしい。
どうやら行川ダイビングサービスには、「ここが自分の居場所だ」と決めて住み着いてしまう人々が何人もいるようだ。それがお客さんの場合もあれば、従業員の場合も、猫の場合だってある。そして、海までもが、親潮と黒潮、どちらも勝浦に自らやってくる。
ダイバーたちはここに集まってくる海に、猫に、人に癒される。この場所には、都会の暮らしに疲れた人々を癒そうとするいろいろな力が働いているのだ。
(第5話へ続く)
なめがわダイビングサービス
なめがわダイビングサービスは新勝浦市漁業協同組合が運営するダイビングサービス兼ショップ。初心者から上級者までが楽しめる5つのダイビング・ポイントがある。漁港近くの浅瀬では、白くて美しい海底の砂地と、イソギンチャクの群生が見られる。
住所
〒299-5255 千葉県勝浦市浜行川166-2
電話番号
080-5053-1835(携帯)、0470-76-3480(ショップ)
メールアドレス
dive@namegawa-ds.com
営業時間
8:00 AM – 4:00 PM(電話は21時まで)
※2日経ってもメールの返信が無い場合は、迷惑メールに振り分けられている場合が御座いますので、お手数ですがお電話か別メールにて再度ご連絡下さい。
勝浦ダイビング協会所属ショップ一覧
勝浦ダイビング協会では、8つのダイビングショップが連携しています。南房総・勝浦海域の環境保全、海洋生物の調査を通じて、勝浦の海の素晴らしさを世界に伝えています。
ほとんどのダイビングショップは、ウェブサイトに掲載されたメールか電話番号に予約をする仕組みです。各ダイビングショップの情報は以下から!
千葉・房総半島のダイビングサービス一覧
千葉ダイビングサービス協力会に登録する9つのダイビングサービスです。各地のダイビングサービスの多くは、個人のお客さんのガイドと、ダイビングショップのガイドさんへのサービスの両方を行っています。
ここで潜りたい!という方は、ダイビングサービスに問い合わせるか、近隣のダイビングショップにご相談ください。
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